思い出のパーマ

ルソーは「はじめは人間に生まれ、次に男性か女性に生まれる」とエミールの中で書いたが、人間とは最初はただの子供という括りで生きて、そして二次性徴ないし思春期を迎えて男と女に生まれ変わる。平たく言えばこう言うことである。
男は女を理解しようとし、また女は男を理解しようとするのは、古今東西を問わず、人としての永遠のテーゼであると言っても過言ではない。
思春期になれば誰もが洒落っ気づき、髪型や服装といった外見を異性の目からどう見えるかということを気にし始めるのは当然と言える。斜に構えたほうがカッコいいとか、前髪をひたすらいじってみたりなど、無意味な努力や思考を経て、大人になっていく。
そうやって、みな青春をドブに捨てるのだ。
ドブに捨てるだけで済めばいいのだが、大抵の場合そうはいかないのであって、誰もが公言することを躊躇う過去、すなわち「黒歴史」の一つや二つはあるだろう。
ドブに捨てるどころか、多くの過去の思い出は粗悪な粗大ゴミである。

私も洒落っ気づき、パーマをかけたことがある。だいたいいつも、マッシュで通してきたのだが、たまには変わったことがしたいとイメチェンをすると周りから似合ってないの嵐が飛んできたので、朝セットしなくて良くて、かつオシャレに見えなくもないマッシュで通してきた。あんまりキノコキノコするとバナナマンの日村になりそうなので、ツーブロを入れてなんて一応気にはしていた。
で、イメチェンがしたい衝動に駆られて美容室を予約してパーマをかけた。切った直後の周りの評価はまあまあだった。
しかし一ヶ月もすれば髪は伸びるし、パーマで傷んだ髪がクルクルとして無造作になっていく。無造作系と言えば聞こえがいいが、収集がつかない状態である。ワックスしても、アイロンをかけても収集つかないのである。
そんな髪型を同級生の女の子に言われた一言
「髪型 陰毛みたい」
花も恥じらうお年頃の乙女に言われた一言は、私とってショック以外の何物でもなかった。デリカシーのない女の子だったと言えども、まだ汚いトイプードルのほうがマジだったと思う。なんとか笑って誤魔化したが、すぐ美容室を予約して、バッサリと切ってもらった。こうして私のパーマデビューは黒歴史として幕を閉じたのである。
ちなみに、バッサリ切った直後にその女の子からはベタ謝りされた。
「気にしてないよ。ただそろそろ髪切ろうと思ってたし、ちょうど良かった感じ」
完璧なホワイトライ。
こうして、少年は大人にまた一歩近づいたのだった。